先日、タンス預金についてご相談を受けました。お母様が軽い認知症になり、お金使いが荒くなり、預金を引き出しておきたいとのこと。また引き出しておけば相続で有利になるのでは?という質問。
タンス預金にはメリットもありますが、デメリットもあります。
また相続のときは、相続資産に加えることになります。
以下、タンス預金のメリット・デメリット、相続での取り扱いについてお話したいと思います。
<目次>
1.「タンス預金」のメリット
2.「タンス預金」のデメリット
3.「タンス預金」は課税されるの?
4.「タンス預金」の調査
1.「タンス預金」のメリット
①お金が必要な時に銀行に行く必要がない
自宅に現金を保管しておけば、営業時間を気にしながら銀行やATMに行く必要もなく、ATM利用手数料がかからないメリットがあります。けがや病気で銀行に行く時間がないときに安心ですし、急なお祝い事のために新札を用意しておく方もいらっしゃるでしょう。
②銀行の破綻などから資産を守ることができる
日本には銀行が破綻した場合、ペイオフでは1,000万円の預金(とその利子)までしか保証されていません。そのため銀行預金が1,000万円を超える場合は、1,000万円を超えた分についてタンス預金を考える方もいるようです。
(仮に5,000万円の預金がある場合、5つの銀行に1,000万円ずつ分散して預金すれば合計で5000万円保護されますので、タンス預金にしなくても大丈夫です)
③口座が凍結されても困らない
相続が始まると、遺産分割協議が終わるまで故人の預金口座が凍結されてしまい、お金を引き出すことができなくなります。(一定金額までは可能ですが手続きが必要です)家族が亡くなった直後は入院費の支払いや葬儀費用など、まとまったお金がかかるので、手元に現金があれば困りません。
④認知症などでお金をおろしてしまうリスクを回避する
親が認知症で預金を引き出しておく方もいらっしゃいます。
認知症と言っても軽い状態であれば、普通に家で日常生活を送っています。しかしお金の管理がルーズになることがあり、心配で最少の残高にしている方もいらっしゃいます。
2.「タンス預金」のデメリット
①災害等で消失するリスクがある
タンス預金は、火災や地震、洪水などの災害で消失するリスクがあります。
火災保険や地震保険では、現金は対象外なので、保険を掛けることもできません。
銀行に預けておけば、通帳が燃えたとしても再発行してもらうことが可能です。
②盗難リスクがある
家に現金を置いておくと、空き巣や強盗などのリスクもあります。
③紛失リスクがある
タンス預金を日々確認している方は大丈夫ですが、盗難予防のため、引き出したお金を、家じゅうに分散してある場合、現金を置いた場所を忘れてしまい、本に挟まったり書類に紛れるなど、気づかないうちに現金を捨ててしまうことがあります。また、タンス預金を家族に隠して亡くなった場合、遺族がそれを知らずに処分してしまうとこともあります。
④相続トラブルになる
タンス預金が相続のトラブルの原因になる場合があります。例えばお父さんの預金をお母さんが引出し、管理していることはよくありますが、相続が始まったときに、特定の子供に現金として渡してしまうことがあります。預金の記録は10年遡って銀行に照会することができるので、多額の引き出しがあったのにタンス預金がないと、争いの火種になってしまいます。またタンス預金の存在を遺族全員が知っていたのに、探してもない場合、誰かが持ち去ったのかと疑心暗鬼になり、遺産分割協議で揉める場合があります。
さらには、相続手続きが終わった後にタンス預金が発見されるケースもあります。遺品整理をしていたら、手提げ金庫が出てきて、大量の現金が入っていた方もいらっしゃいました。その場合、遺産分割はやり直し、相続税も修正申告が必要になります。
以上、タンス預金のメリット・デメリットについてみてきました。
次に相続での取り扱いをお話ししましょう。
3.「タンス預金」は課税されるの?
「タンス預金」は現金として相続財産に含めます。亡くなる直前に引き出した現金だけでなく、以前から引き出していた現金も課税対象になります。
また「タンス預金」はバレないのでは?という質問をいただくことがあります。結論から申しますと、多額の「タンス預金」は見つかるリスクが高いです。
4.「タンス預金」の調査
①預貯金調査
税務調査をする場合、税務署は預貯金の記録を最短でも過去10年分を調べます。この間に通常の生活資金を超える引出があれば、タンス預金が疑われます。
②税務調査
また税務調査では、亡くなった方の生い立ち、経歴や趣味、交友関係、蓄財の方法のみならず、相続人の経歴や職業、現在の収入を質問されます。何気ない雑談をしているようですが、調査官はプロなので、少しの違和感からタンス預金がバレることがあります。
実地調査では亡くなった方だけでなく、相続人の通帳を見せるよう言われることもあります。通帳を入れてある引出し、家庭内の金庫、銀行にある貸金庫も調査されます。疑わしいのに、見つからない場合、取引銀行や取引先に反面調査をすることもあります。
③KSK(国税総合管理システム)
国税庁と全国の国税局、税務署はKSKというネットワークで結ばれています。KSKでは申告・納税の事績や様々な情報を一元管理し、国民の収入や財産を把握しています。(サラリーマンの年末調整データも収集しています)税務署はこのシステムを用い、納税者ごとの詳細なデータを入手しています。
以上、タンス預金のメリット・デメリット、相続税での取り扱い、調査で見つかるケースについてお話ししました。
最近は預024年金封鎖や財産税もささやかれ、現金を手元に置いておきたい方もいらっしゃいます。しかし2024年に新円が発行されることから、現行紙幣は一度銀行に預金することになるかもしれません。
もし認知症対策で預金を引き出したいのであれば、普段使っている口座とは別の口座を子世帯名義で開設し、預金通帳に入金する形で預かることをお勧めします。生活費の口座と分けるのは、贈与を疑われないためです。親が同意していれば、預かっている旨を文書にしておくと安全です。もし認知が進んで親の同意が取れない場合、後見人を立てることも考えるとよいでしょう。
この預かった預金は、相続税の申告では、被相続人(亡くなった方)の預金として申告することになります。
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