相続争いなんて何億円も資産がある資産家やドラマだけの中だけ、、、と思われているかもしれません。しかし実際の相続では、もめる相続の7割以上が遺産金額5000万円以下となっています。
<目次>
1.家庭裁判所で扱う相続の7割は5000万円以下
2.少ない資産で争ってしまう理由
3.その他の争う理由
4. 相続トラブルを回避するには?
1.家庭裁判所で扱う相続の7割は5000万円以下
2017年中に家庭裁判所による遺産分割事件の認容・調停成立件数は7,520件ありました。そのうち遺産の価額が1億円を超えるものは、わずか529件。これに対して、1,000万円以下の件数は2,413件。5,000万円以下の件数は5,697件で、全体の約75%の割合を占めました。(下記図、参照)
司法統計:「平成27年度の遺産分割事件数」
なぜ5000万円以下の相続で、争いが多く起きてしまうのでしょう?
2.少ない資産で争ってしまう理由
①遺産が実家しかない
10年前と比較して、東京圏ではほとんどの土地が値上がりしており、2020年の住宅地の1㎡あたり平均公示地価は、千代田区270万円、港区、200万円、中央区130万円となっており、23区の平均では631,300円となっています。もし100㎡(約30坪)の土地を所有していれば、63,130,000円の価値があることになります。
ご両親に預貯金がなく年金で暮らしていらっしゃり、資産のほとんどが土地と家屋である場合、残された遺産の多くを土地が占めることになります。もしお父様が亡くなり、お母様が残され、法定相続通りに財産を分けようとすると、住まいを売却することになってしまいます。あるいは、土地を共有持分にしたいという方も出てくるかもしれません。土地のように分けられない遺産が多い場合、もめることがあります。
②世代間ギャップ
親世代は大したお金ではないと思っていても、教育費や住宅ローンの負担が重い子世代にとって、数百万円でも助かるかもしれません。また高齢化と核家族化が進むなか、家族同士のコミュニケーションが十分ないまま相続が発生すると、遺産をめぐった争いになることもあります。
③介護の負担が偏っている場合
特定の相続人に介護の負担が偏っている場合にも、トラブルが生じやすくなっています。介護離職をし、働き盛りを介護で費やす方がいらっしゃる場合、自分が全財産を相続したいという気持ちも生まれてくるでしょう。他方、他の相続人は、同居している家族は家賃負担がないのだから、得をしていたと思うかも知れず、もめごとに発展するケースがあります。
④兄弟仲が悪い、疎遠
③のケースでも兄弟間で話し合いがなされていれば、争いは回避できます。しかし、もともと兄弟仲が悪いか、疎遠で、事前に十分な話し合いができない場合、もめることがよくあります。
3.その他の争う理由
5000万円以上の、十分な資産があっても争うことはあります。どのような理由が多いのか見てみましょう。
①遺産に不動産が含まれている
実家だけでなく、別荘や賃貸物件などいくつか資産があっても、どれをもらうかでもめることがあります。全部売ってお金にしたい人もいれば、賃貸物件を相続したい人もいて、意見が合わずもめることがあります。
②高額な生前贈与
住宅資金や教育資金、車購入など、亡くなった方が特定の相続人に生前贈与を行っている場合、トラブルになるケースがあります。
③親が事業をしている
親が事業をしていると財産内容が複雑で分かりにくく、後継者になる相続人とそれ以外の相続人で意見が合わないことがあります。
④特定の相続人が財産管理をしている
財産管理を特定の相続人に任せている場合、財産内容の開示を拒否されたり、「財産の使い込み」を疑われたりすることがあります。法定相続人であれば、銀行に預金の動きを問い合わせることはできますが、そこで使途不明な出金や振込が見つかると、争いに繋がることもあります。
⑤不公平な遺言書
残された遺言書の内容が不公平である場合にも、相続トラブルが起きやすいです。「全財産を〇〇〇に譲る」という遺言も有効ですが、他の相続人は遺留分として、法定相続の1/2を請求することができます。もちろん家族仲が良く、請求しない場合もありますが、あまりに不均衡で遺留分に対する配慮を欠いた遺言は、争いの種になることがあります。
⑥離婚・再婚した場合
前妻には相続権はありませんが、前妻の子供は相続権があります。親が離婚した場合、立場や関係性が難しく、話し合いさえできないことがあります。
⑦内縁の妻がいる
内縁の妻には相続権が認められていません。内縁の妻が介護をしていた場合や、亡くなった方の財産で生活していた場合、また財産を管理していた場合など、立場の違いから、意見の調整が難しくなります。
4.相続トラブルを回避するには?
以上、お話ししてきたように、相続トラブルは相続人の立場の違い、生前贈与や遺言の不公平などお金の問題、相続人間のコミュニケーション不足によって起こります。また相続人の問題だけではなく、親が極端に一人の子を可愛がった、あるいは阻害したなど、親の行動が原因になっていることもあり、問題は複雑化しています。
親が亡くなった後のトラブルを予防したり、和らげるために、準備できることがあります。
①遺言書を作成する
相続トラブルを避けるために遺言書は必須です。ご自身で作成する自筆遺言も認められていますが、所定の様式を満たさない遺言や、先にお話しした通り遺留分に配慮されていない内容の場合、かえって争いの種になることもあります。子供同士の争いを本当に避けたいのであれば、弁護士や司法書士に依頼し、公正証書遺言にすることが望ましいです。費用は掛かりますが、子供たちが裁判で争った場合は、その数倍の弁護士費用を負担することになるので、全体の資産を減らさないためにも、専門家への事前相談をお勧めします。その際、誰がどの資産を相続するかで相続税額が変わってきますので、弁護士や司法書士の他、税理士の意見も聞いた方が良いでしょう。相続になれている弁護士・司法書士・税理士であれば他士業と連携して相続業務を行いますので、最初にご相談した方に他士業の紹介を求めるのが良いでしょう。
また亡くなった後に、いきなり遺言があると聞くと、その事実を知らなかった家族の気持ちは穏やかではありません。遺言書を作成したら、全部でなくても良いですが、親が大体の方針を伝えておけば、心の準備もできます。
②家族で話し合う
親兄弟が疎遠であっても、親が亡くなれば、お葬式や法事など協力し合う場面が出てきます。それぞれの生活があるので、なかなか連絡が取りづらいですが、大人になり、お互いの現在の状況や立場を知ることで、思いやりが出てくることもあります。「~べき」という自分の意見は押し付けず、意見交換から始めてみるのもいいかもしれません。介護などの問題がある場合、費用や方針などを話しておくことで、食い違いが防げます。
③公明正大であること
遺言を書かずに亡くなってしまっても、できることがあります。財産管理をしていた人は、財産の内容を包み隠さず開示し、生前介護で使った費用や生活費などを記録しておきましょう。他の相続人から使途不明などの疑いをかけられたときのために有効です。
④お互いが違う人間であることを理解する
親兄弟であっても、考えていることや大事にしているとことなど、価値観が違うのは当然です。誰かの正しさが、他の人にとって正しいとも限りません。どうしても考えや主張が対立してしまうときに法律がありますから、事前に法律を学び、主張できること、できないことを整理しておくと、いざというときにカッとなることを抑えられます。
ここまでお話ししてきて、相続のトラブルは、お金の問題であるように見えて、実は心の問題であることにお気づきになると思います。相続は避けてきた課題に向き合い、半生を振り返る機会でもあり、実はカウンセラーの領域であるような気さえします。正しい知識を学び、気持ちの整理ができ、皆様の相続が、穏やかなものになることを願っております。
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